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名古屋高等裁判所 平成6年(ネ)137号 判決

名古屋市守山区川宮町一八七番地

控訴人

伊佐地一利

右訴訟代理人弁護士

田倉整

高木修

内藤義三

三木浩太郎

金子忠彦

右輔佐人弁理士

長屋文雄

和歌山県新宮市新宮三四五六番地

被控訴人

株式会社フクダ精工

右代表者代表取締役

福田拳二

右訴訟代理人弁護士

片井輝夫

梅本弘

池田佳史

川村和久

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審請求を棄却する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人は、

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、別紙イ号物件目録記載のイ号物件の構造を有するロッドミル(以下、「イ号物件」という。)を製造し、又は販売してはならない。

3  被控訴人は、別紙イ号物件目録記載のイ号の2物件の構造を有するロッドミル(以下、「イ号の2物件」という。)を製造し、又は販売してはならない(当審請求)。

4  被控訴人は、控訴人に対し、金二四〇〇万円及びこれに対する平成三年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二  被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  本件事案の概要

一  経緯等

被控訴人代表者福田拳二は、ロッドミル(製砂機、回転ドラムの中に砕石等とロッドを混入して回転させることにより砕石等を粉砕して砂を作る装置)に関する特許権(昭和五四年出願公告、乙第三号証、以下右特許権を「福田特許権」という。)を有していた。

他方、控訴人は、昭和五七年、ロッドミルに関する考案(原判決事実及び理由欄第二の一1ないし4掲記の考案、以下「本件考案」という。)につき実用新案登録を申請した(乙第五号証)が、特許庁審査官から昭和六一年七月第一回目の(乙第七号証)、同年一一月第二回目の(乙第一〇号証)、各拒絶理由の通知を受けて、その都度手続補正書(乙第九、第一二号証)を提出して本件実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明を訂正したものの、昭和六二年、特許庁審査官から拒絶査定(乙第一三号証)を受けた。これに対し、控訴人は、同年七月、特許庁長官に対し審判の請求をするとともに、同年七月三一日付け手続補正書(乙第一五号証)により、実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明を本件公報記載のとおりに訂正し、請求の範囲を大幅に減縮した結果、平成元年、その設定の登録(登録番号第一七六四九九七号・甲第二号証)がなされた。

そこで、控訴人は、右実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)に基づき、被控訴人及び控訴取下前相被控訴人ラサ工業株式会社(以下「ラサ工業」という。)に対し、イ号物件の製造販売行為の差止めと右製造販売行為により控訴人が被った損害の賠償を訴求したのが本件である。

原審は、原判決事実及び理由欄第二の一3及び第三の二1において、本件考案の構成要件をAないしGに分説した上、〈1〉イ号物件は、右構成要件B、E中の「水平」の要件を充足せず、また、〈2〉イ号物件では、駆動軸から一つの差動装置に伝えられた回転を他の差動装置に伝えるべき中間軸が存在しないことなどの点において、右構成要件C、Dを充足しているとはいえないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人は、控訴後、請求を拡張し、製造販売行為の差止め請求の対象物件に、イ号の2物件を加え、他方、ラサ工業に対する控訴を取り下げた。

二  当事者の主張等

当事者間に争いのない事実及び争点とこれについての当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実及び理由欄の第二の一及び二に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1 当審請求について

被控訴人は、イ号物件のほか、イ号の2物件(駆動軸と中間軸の間にプロペラシャフトなど各種ジョイントが介在する点を除けば、イ号物件と同一構造のもの)をも製造販売しているが、イ号の2物件も、イ号物件と同一の理由により、本件実用新案に抵触するものである。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、イ号の2物件につき、その製造販売行為の差止めを求める。

2 構成要件C、D中の「中間軸」、「駆動軸」の意義について

(一) 本件考案の意義は、一個の駆動源で対称の関係にある四個の駆動輪を等速で回転させるために、差動装置を用いたこと(一駆動源四輪差動駆動方式)にあり、差動装置や回転伝達手段そのものについての考案ではないから、いかなる差動装置や回転伝達手段を用いるかについては、制約はないことに、まず留意すべきである。

したがって、本件考案における駆動源の回転を伝達する手段としては、「駆動軸」、「中間軸」の「シャフト」だけに限定されるものではなく、「ギアー」、「カム」、「プーリー」、「ベルト」等々とさらにそれらの組合せで、当業者であれば容易に考えつく程度のものは、本件考案に含まれると解釈すべきである。本件イ号及びイ号の2物件に見られるように、実施例がシャフトであるところを、ベルトとプーリーに置き換えただけの、当業者であれば誰でも考えつく程度のものは、この「同一駆動源で等速の回転を各差動装置に伝達できるもの」に含まれるというべきである。

(二) また、中間軸は、一対の差動装置を回動自在に連結するものであれば足り、かならずしも一方の差動装置から回転の伝達を受けなければならないものではない。

したがって、本件イ号及びイ号の2物件に見られるように、駆動軸の回転が直接中間軸に伝えられる構造になっているものも、本件考案に含まれると解すべきである。

なお、本件考案は、差動装置を利用した考案であっても、差動装置についての考案ではないから、いかなる差動装置を用いるかについての制限はない。

(三)(1) 次に、原判決は、本件考案においては駆動軸と中間軸が別個の部品であるとしたが、「請求の範囲」において、「中間軸」と「駆動軸」とが、異なる語をもって表現されているという理由だけで、これらを二つの独立した部品でなければならないと即断するのは誤りである。すなわち、「請求の範囲」中には、「中間軸」と「駆動軸」とが「別個の軸」であるとの記載がないだけでなく、本件考案において、中間軸は、「二つの差動装置を回動自在に連結することにより、一方の回転を他方に伝達するもの」、駆動軸は、「二つの差動装置のうちの一つと駆動軸とを回動自在に連結することにより、駆動軸の回転を当該差動装置に伝達するもの」とされていて、回転を伝達するという機能の面では、両者は同じものであるところ、控訴人は、構成要件の明瞭化の観点から異なる名称を付しただけのものであり、そうだとすれば、これらが、別個の独立した部品であると解さなければならない必然性はない。

(2) また、控訴人第五準備書面六ページの参考図記載のとおり、中間軸と駆動軸の一体成形は可能なのであるから、一体成型か別個の部品かで論じた原判決は、この点からも誤りである。

(3) 本件出願の経過をみると、控訴人は、一回目の意見書、補正書(乙第八、九号証)中において、引例が、差動装置を用いたものではないことを指摘した上、本件実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明を、差動装置の存在を強調する文言に補正し、二回目の意見書、補正書(乙第一一、一二号証)において、引例が片側駆動であることを指摘した上、請求の範囲及び考案の詳細な説明を、差動装置がペア(一組)あることを強調する文言に補正し、三回目の審判請求理由補充書、補正書(乙第四、一五号証)において、引例が片側駆動であったり、駆動源が複数であることを指摘した上、請求の範囲でそれとの違いを強調するため、両側駆動であり、かつ、駆動源は一つであることを強調する文言を挿入したものである。以上の意見と補正の経緯をみれば、駆動軸と中間軸が二個の部品でなければならないとか、一個の部品で可能かという問題は全く関係のない事項であり、出願人が一個の部品の場合を除外する趣旨はそこには一切表れていないことが分かる。

(4) 原判決は、右(1)のように限定すべき理由として、「考案の詳細な説明の欄に記載されている実施例も右の解釈を裏付ける」とするが、右実施例の記載に基づいて、限定解釈することは、「実施例非拘束の原則」に反する。

3 構成要件B、E中の「水平」の意義について

(一) 本件考案は、物品の構造についての考案であって、使用方法についての考案ではなく、控訴人が請求しているのは、イ号物件の製造販売の差止めなのであるから、水平かどうかは、使用者の使用方法によらず、製造販売段階の物件の構造自体に基づいて判断すべきである。そして、イ号物件及びイ号の2物件は、製造段階で水平となる構造のものである。したがって、使用者がイ号物件をどのように使用するかは、イ号物件が本件考案を充足する物件かどうかとは別の問題である。控訴人が、原審でそのように主張したのに、原審は、これを事実摘示に掲げず、また、理由においては、「水平面にそのまま設置することを予定されておらず」として、「予定された設置方法」に基づいて判断をしているが、不当である。

(二) 原判決は、控訴人が、イ号物件は水平な構造であることから「動作は安定したものとなり、ロッドの転動や駆動輪の磨耗等によるシェル本体の重心の変動に的確に対応して、シェル本体をスリップさせることなく確実、かつ、安定し、効率良く回転させる」効果を発揮している旨主張したのに、事実摘示に掲げず、理由においてもイ号物件が右効果を備えているかどうかについて触れていない。

(三) 原判決は、本件考案における水平の意義を文字どおりであるとし、許容量は計器の誤差の範囲内だけである旨判示した。しかし、出願経過に照らせば、本件考案にいう水平とは、五ないし一〇度の傾斜を除外する趣旨であり、本件考案の作用効果に照らせば、一度程度のものはこの水平に含ませなければかえって不合理である。

仮に、水平の許容量を計器の誤差の範囲に限定するとしても、一度程度というのは、通常の計器(甲第一八号証の一、二、第二〇号証の一、二参照)の誤差の範囲内である。

(四) 原判決は、被控訴人の主張する「傾斜による材料の滞留時間の延長とそれにより生産される砂の大きさが変化し、ロッドの飛び出しが阻止される」などの作用効果について、「傾斜によって被控訴人の主張する作用効果がないとはいえず」と認めて、本件実用新案権の侵害を否定した。しかし、控訴人主張の水平な構造であることから動作は安定したものとなり、ロッドの転動や駆動輪の磨耗等によるシェル本体の重心の変動に的確に対応して、シェル本体をスリップさせることなく確実、かつ、安定し、効率良く回転させるとの作用効果とは別個の作用効果が存在することを侵害を否定する理由とするのであれば、その作用効果の存在の立証責任は、その作用効果を主張する被控訴人側に立証責任を負わせるべきであって、控訴人にその作用効果がないことの立証責任を負わせるべきではない。

しかも、原審においては、傾斜による材料の滞留時間の延長とそれにより生産される砂の大きさが変化し、ロッドの飛び出しが阻止されるなどの被控訴人の主張する作用効果については、具体的には何も立証されていなかったのである。

(五) なお、控訴人は、当審において、公証人立会いの上で事実実験を行ったところ、甲第二二号証、第二三号証記載のとおり、被控訴人製造のこの種ロッドミルにおいては、一度程度の傾斜では「水平」と全く異ならないことが確認された。そして、排出側を上向きに傾斜させると材料が出にくくなるので、材料は長時間滞留し、砂の粒が細かくなるとの被控訴人主張の作用効果については、実験の結果、水平の場合と比較して一度の場合に排出された砂の量は全く変わらず、砂の粒度も全く変わらなかった。また、水平の場合はロッドが動作中に飛び出すが、一度の場合は飛び出さないとの被控訴人の主張する作用効果はなかった。

4 本件考案の技術的範囲について

原判決は、本件考案の技術的範囲ないし権利範囲を極めて狭く限定的に解釈したが、本件考案に無効原因が存在しないのに、このように限定的に解釈することは合理性を欠くものである。

この点について、原審において、被控訴人が本件考案には公知の無効事由があるからその技術的範囲ないし権利範囲を狭く解すべきことを主張し、控訴人は無効事由は存在しないからその範囲を狭く解すべきではない旨主張して争ったのであるが、原判決は、これを事実摘示に掲げず、理由中でも、本件考案に無効事由があるか否かについての言及を避けている。しかしながら、原審が、無効事由の主張について、どのように考えていたのかは重要なことであるので、事実摘示においてこれに触れていないのは不当である。

よって、原判決の判断は誤りである。

(被控訴人の主張)

1 控訴人の主張1(当審請求)について

イ号の2物件がイ号物件目録添付のイ号の2図面のとおりの構造を有していることは争わない。

しかし、控訴人主張のジョイントは、軸のぶれなどを吸収しながら駆動源の回転力をそのまま伝達させるためのものであり、ジョイントを含めて一本の駆動軸ともいえるから、右ジョイントの存在な、原判決の判断に何らの影響を及ぼすものではない。そして、イ号の2物件においては、回転力は、駆動源から駆動軸(ジョイント部を含む)を経て、差動装置を介することなく、駆動軸から直接数個の差動装置に伝達される構造となっているから、この点において、イ号の2物件は、本件考案の構成要件を欠くものである。

なお、被控訴人の製品には、従来からジョイントがあったのであり、ジョイントのないイ号物件はもともと存在していない。

2 控訴人の主張2について

(一) 控訴人の主張2(一)は争う。

控訴人は、その主張に係る「一駆動源四輪差動駆動方式」につき拒絶査定を受けた結果、本件考案の請求の範囲を「中間軸」を介したものに限定し、さらに「水平」を構成要件として、請求の範囲を大幅に減縮してようやく本件考案の登録を得た。

したがって、一駆動源四輪差動駆動方式を請求の範囲とするとの前提での控訴人の主張は理由がない。

(二) 控訴人の主張2(二)は争う。

本件考案における中間軸とは、二つの差動装置を回動自在に連結することにより一方の回転を他方に伝達するものであって、換言すれば、回転力は、一方の差動装置から中間軸を介して他方の差動装置に伝達されるという構造になっていることを要する。

(三) 控訴人の主張2(三)は争う。

原判決が、本件考案につき、中間軸と駆動軸が別個に存在しなければならないと判示したのは、中間軸は二つの差動装置を回動自在に連結することにより一方の回転を他方に伝達するものであり、駆動軸は二つの差動装置のうち一つの駆動源とを回動自在に連結することにより駆動源の回転を当該差動装置に伝達するものであって、したがって、駆動源の回転が駆動軸から差動装置の一方に伝達され、さらに当該差動装置から中間軸を介して他方の差動装置に伝達されるという構造になっていなければならないことになるからである。

なお、控訴人は、本件考案の構成要件を充足しながら、中間軸と駆動軸が一体成型されているものがあるかのように主張するが、このようなものが技術的に観念できないことは、控訴人の第一準備書面六ページの装置図、第五準備書面六ページの参考図から明白になったというべきである。この点について、控訴人は、控訴人第五準備書面六ページの参考図のとおり、中間軸と駆動軸の一体成形が可能である旨主張するが、参考図でいう中間軸は、二つの差動装置間を回動自在に連結することにより一つの差動装置からの回転力を伝達しているのではなく、駆動源から駆動軸に伝達された回転力そのものが差動装置1を介することなく、差動装置2に伝達されている。つまり、右参考図にいう中間軸は駆動源からの駆動力によって回転力を伝達しており、まさに駆動軸そのものである。したがって、本件考案の構成要件を充足するものではない。

3 控訴人の主張3について

(一) 控訴人の主張3(一)は争う。

本件考案は、転軸体及びシェル本体の各中心が水平であるからこそ安定したものとなり、ロッドの転動や駆動輪の磨耗等によるシェル本体の変動に的確に対応して、駆動輪の回転を差動させることができるとして考案されたものであるから、水平は、本件考案の要部であり、水平を構成要件から除外すれば、本件考案は考案として完成しないか、又は考案として新規性を欠くに至ったものである。したがって、水平は、本件考案の重要な構成要件の一つである。

(二) 控訴人の主張3(二)は争う。

福田特許権に係る特許公報の詳細な説明では、傾斜角を持たせる方法につき、傾斜角度を介挿用のかませ物を用いることも明示されている。したがって、ロッドミルそのものが基台から傾斜するのではなく、イ号物件がかませ物によって若干の傾斜を持たせる構造になっており、現に、専用の、ライナーとセットで販売されている。

(三) 控訴人の主張3(三)は争う。

控訴人は、福田特許権に係る特許公報の詳細な説明中に「五度から一〇度」とあるのを引いて、若干傾斜とは五度から一〇度であると主張するが、独自の見解であって、むしろ、かませ物によって傾斜させられるという詳細な説明から、一度前後の傾斜をも包含することは明らかである。

また、請求の範囲の解釈は、当業者の立場で通常どおり解釈すべきである。したがって、「水平」とは、大型ロッドミルの製造、あるいは設置する当業者が用いる計器の誤差の範囲にある水平という意味であり、原判決に誤りはない。控訴人の引用する計器は、本件のような数十トンのものが重心を変動させながら稼働する大型機器を設置するための計測器ではない、

なお、甲第七号証によれば、ロッドミルの基礎コンクリートのレベル、架台等の傾きの測定において秒単位(一度の三六〇〇分の一)の精度を出しているが、大型機械設置において水平とは、このように数分程度の計測誤差をいうのであって、一度の傾斜は計測誤差をはるかに超えるものである。

(四) 控訴人の主張3(四)の主張は争う。

また、シェル本体を傾斜させることにより、ロッド棒のシェル内での移動防止、粒状の調整、滞留時間の調整等の重要な作用効果が存在する。

(五) 控訴人の主張3(五)は争う。

控訴人は、実験結果によると、傾斜一度の場合に排出された砂の量、粒度も全く変わらなかった旨主張するが、全く同一条件で行った試験においてもわずか一度の傾斜角度によって、粒度、乾燥重量が変動することが明らかになったというべきである。また、ロッドの飛び出しについて、被控訴人は、水平であると必ずロッドが飛び出すなどという主張はしたことがない。ロッドが飛び出すことは事故発生に繋がることであり、排出口の形状によってロッドを飛び出しにくくすることは当然のことである。

4 控訴人の主張4(本件考案の技術的範囲)について

控訴人は、出荷段階でのイ号物件自体の構造についての判断を省略したと原判決を論難するが、本件事案を判断するについて、出荷段階でのイ号物件自体の構造は、全く無関係であるから、右主張は失当である。

また、控訴人は、本件考案の権利範囲につき限定解釈をするには本件考案に無効事由がなければならないのに、原判決は無効事由の存否についての当事者の主張を事実摘示していないのは不当である旨主張するが、無効事由の有無は、一事情に過ぎないのであり、原判決は、本件考案の請求の範囲の記載、詳細な説明、出願経過などからして、本件考案の権利範囲を確定したものであって、控訴人の批判は当たらない。

第三  証拠関係

原審及び当審の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  イ号物件及びイ号の2物件の特定について

イ号物件及びイ号の2物件が別紙イ号物件目録添付のイ号図面及びイ号の2図面のとおりの構造を有していることは当事者間に争いがない。被控訴人は、その構造の説明のうち部材の名称及び動力伝達の方法の記載の一部について、控訴人と異なる主張をするが、その点は、イ号物件及びイ号の2物件の構成そのものではなく、構成部分の評価、表現方法に関するものに過ぎないと認められるから、別途、本件考案とイ号物件及びイ号の2物件の構成の対比において併せて検討すべきである。

二  イ号物件及びイ号の2物件は本件考案の技術的範囲に属するか(争点2)

1  構成要件C、D中の「中間軸」「駆動軸」の意義について

当裁判所も、請求の範囲の記載からして、本件考案における中間軸とは、「二つの差動装置を回動自在に連結することにより、一方の回転を他方に伝達するもの」と、駆動軸とは、「二つの差動装置のうちの一つと駆動軸とを回動自在に連結することにより、駆動軸の回転を当該差動装置に伝達するもの」と解するのであって、そうだとすると、本件考案においては、駆動軸から差動装置の一方に伝達された回転力が、さらに当該差動装置から中間軸を介して他方の差動装置に伝達される構造になっていることを要するものと解されるところ、イ号物件及びイ号の2物件においては、駆動軸から差動装置の一方に伝達された回転力が、控訴人のいう中間軸に伝えられる構造とはなっていないことは明らかであるから(換言すれば、駆動軸から一つの差動装置に伝えられた回転を他の差動装置に伝えるべき中間軸が存在しないことになるから)、イ号物件及びイ号の2物件は、この点において、本件考案の構成要件C、Dを充足しないと判断するものであって、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由の第三の二の1(一)、同2の(三)及び同3記載のとおりである(ただし、駆動軸と中間軸が別個の部品か否かの点は除く。)から、これを引用する。

(一) 原判決の訂正

原判決一八ページ四行目「及び構成要件B、E」、同二九ページ五行目「B、」「、E」をそれぞれ削除する。

(二) 控訴人は、本件考案の意義は、一個の駆動源で対称の関係にある四個の駆動輪を等速で回転させるために、差動装置を用いたこと(一駆動源四輪差動駆動方式)にあると主張するが、成立に争いのない乙第五、第七、第九、第一〇、第一二、第一三、第一五号証によれば、控訴人は、本件考案の出願時において、本件考案の請求の範囲につき、「同一駆動源で駆動される差動装置を介して二本の転軸を連結し、かつ、両端に駆動輪を固設し・・・前記駆動輪すべてを同一駆動源で回転駆動させることにより前記シェル本体を回転させるべく形成したこと特徴とするロッドミル」と記載し、控訴人のいう一駆動源四輪差動駆動方式を採用したことに意義があるとしたが、右出願については、特許庁審査官から二回にわたり拒絶理由の通知を受け、さらに、昭和六一年六月二日付けで拒絶査定がされたため、控訴人は、その都度手続補正書を提出して、本件考案の請求の範囲の訂正を繰り返し、最終的には原判決掲記の構成要件のとおり権利範囲を減縮した結果、ようやくその設定の登録が認められたという経緯があることが認められる。そして、本件実用新案権が、以上の経緯を経て認められたものであることに照らせば、本件考案は、単なる一駆動源四輪差動駆動方式に新規性が認められたのではなく、本件公報の請求の範囲記載のとおり、動力伝達方式を、駆動源・駆動軸から一方の差動装置を介して転軸体へ、同時に、差動装置を介して中間軸を経て、他方の転軸体へという動力伝達方式に限、定するともに、シェル本体を水平とする点に新規性が認められたものと解せられる。

したがって、一駆動源四輪差動駆動方式になんらの限定を付することなく、これを請求の範囲とするとの前提での控訴人の右主張は理由がない。

(二) 控訴人は本件考案に無効事由がないのに、本件考案の請求の範囲を限定的に解した原判決の解釈は誤りである旨主張するが、本件構成要件に関する右解釈は、本件公報の請求の範囲の文言に基づくものであって、ことさらに限定的に解釈したとか、無効事由の存在を前提として限定解釈したというものではないから、控訴人の右主張はその前提において既に採用できないものであることは明らかである。

2  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、イ号物件及びイ号の2物件のいずれも構成要件C、Dも充たしていないから、いずれも、本件考案の技術的範囲に属するものではないというべきである。

第五  結論

そうすると、イ号物件について控訴人の請求を棄却した原審の判断は相当であって、本件控訴は理由がなく、また、当審において拡張したイ号の2物件についての控訴人の請求は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴人の当審請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 菅英昇 裁判官 筏津順子)

イ号物件目録

イ号物件、イ号の2物件は添付図面記載の構造を有するロッドミルである。

第一 図面の説明

イ号図面はイ号物件の図面であり、イ号の2図面はイ号の2物件の図面である。

全体外形図は、各物件の全体の概略を示す斜視図であり、

正面図は同様に各物件の動力の伝達構造を、いずれも全体外形図において左方向かち見た状態を示し、平面図は同様に各物件を上方向から下に見た状態を示す。。

第二 構造の説明

イ号、イ号の2物件の構造を、動力の伝達を中心にして説明する。

シェル本体Aの内部(図示せず)には、砕石の目的とする岩石等を鉄のロッドなどと共に入れる。

駆動源Cは、電動機であり、回転をベルトDにより駆動軸Eに伝えられる。

駆動軸Eの回転はベルトFを介して差動装置Gに伝えられる。

イ号物件において、中間軸Mは差動装置Gの間をベルトFを介して連結している。

イ号の2物件において、中間軸Mにはプロペラシャフト、カップリング等のジョイント部材Nを介して、差動装置Gの間をベルトFを介して回転が伝達される。

差動装置Gは駆動軸Eの回転を、それとは直交状にある転軸H-Hの回転に変える。

転軸体Iは、一対の転軸H-Hからなり、それぞれの転軸H-Hの回転は両側に一対ある駆動輪Jに伝えられる。

駆動輪Jは外輪体Bを支えると共に、その回転により外輪体Bを回転させる。

シェル本体Aは、外輪体Bが回転されることにより回転する。

なお、駆動源Cによって生じた回転は、同様のコースをたどり、駆動補助輪Kをも回転させ。この回転は外輪体Bにも伝えられる。

また、外輪体Bがはみ出すことを防止するため、遊輪Lが外輪体Bの両側に設置されている。

なお、イ号物件、イ号の2物件を水平面に置いた場合、シェル本体Aの回転中心軸及び二基の転軸体Iは、その面に対して平行状である。

イ号図面

〈省略〉

イ号の2図面

〈省略〉

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